本記事では、次の疑問を解消します。
- 「イップスって何?」
- 「イップスってどんな症状が出るの?」
- 「イップスの克服方法を教えてほしい…」
本記事の内容はこちら。
- 野球選手が経験するイップスとは
- イップスの症状
- イップスの原因
- イップスになりやすい傾向の性格
- イップスの克服方法
記事の信頼性は次のとおり。
日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー(JSPO-AT)として、ラグビーやバレーボール、フィットネスクラブの指導を経験。
本記事では、イップスの原因や症状、克服方法について分かりやすくまとめています。
では、早速見ていきましょう。
目次
1.野球選手が経験するイップスとは

イップスは、さまざまなスポーツ種目において起こりうる運動障がいであり、野球選手特有の運動障がいではありません。
なぜなら、ゴルフやクリケット、テニスなどのスポーツ種目でも起こりうるからです。
では、イップスは、どのように定義されるのでしょうか。
定義を以下に記載しているため、ご覧ください。
イップスとは,「運動スキルの遂行に影響する不随意運動からなる長期的な運動障がい」(Roberts et al, 2013, p.53)と定義されている.
引用 イップスを経験したスポーツ選手の心理的成長ー野球選手を対象としてー3)
また,イップスは,ゴルフのパッティング時に見られる運動障がいと位置づけられていたが(McDaniel et al., 1989),野球,クリケット,テニスなどの複数のスポーツ種目において類似の現象が認められるようになった(Clarke et al., 2015;ブレイクスリー・ブレイクスリー, 2009).
つまり、イップスは、さまざまなスポーツ種目において起こりうる長期的な運動障がいとされています。
2.イップスの症状

イップスの症状は、次の2つに分けて解説します。
- 身体的症状
- 心理的症状
それぞれ見ていきましょう。
2-2.身体的症状
イップスの身体的症状は、多種多様であるという特徴があります。
なぜなら、青山らの研究では、次のような症状が認められているからです。
詳しくは、次のとおり。
・「送球する位置が定まらない」
引用 大学野球選手における送球イップスの発症率とその症状に関する探索的研究1)
・「ボールが手から離れない」
・「ボールを地面にたたきつける」
・「送球相手にボールが届かない」
・「ボールが送球相手を大きく超えてしまう」
・「暴投する時の逸れる方向は一定である」
したがって、イップスの身体的症状は、多岐にわたります。
2-1.心理的症状
イップスの症状を呈すると、どのような心理的変化が起こるのでしょうか。
イップスの症状を呈した場合、否定的な心理状態に陥ることがほとんどであり、パフォーマンスを発揮するうえで、致命的な問題になりかねません。
ある調査では、「対象者全員が不安の高まりなどを経験した」という結果が出ていることから、上記の内容も納得できるでしょう。
一例として、次をご覧ください。
・その時(イップスの症状が現れているとき)はもう投げれなくて…野球と向き合いたくないというか…野球って言葉が嫌になるというか…いっそのこと違う部活してやろうかなみたいな
引用 イップスを経験したスポーツ選手の心理的成長ー野球選手を対象としてー3)
・イップスになってから,全てが嫌になりましたね…現実逃避しましたね…できない自分も悔しかったし,なんでなったのかもわからないし…どうすれば治るのかもそのときはわかんないし…自分を責め続けましたね
つまり、イップスは、心理的な負担によって、パフォーマンスに悪影響を及ぼすとされています。
3.イップスの原因

イップスの原因は、選手によって異なります。
なぜかと言うと、環境や人間関係、失敗による不安など、さまざまな原因があるからです。
では、具体的にどのような原因が挙げられるのでしょうか。
一例を挙げているため、ご覧ください。
・指導者, 先輩,チームメートなど周囲からの評価や視線を気にしたり,対人関係を気にしすぎてしまい投球フォームが不自然になったりすることとしている。
引用 複線径路・等至性モデル(TEM)による送球イップス経験者の心理プロセスの検討4)
・失敗を恐れることによって身体にブレーキがかかることが一番の原因と指摘している。
・一度ミスをすると,再びミスしたらどうしようという予期不安が高まることによってイップスに陥ってしまうと報告している。
したがって、イップスの原因は、人それぞれであるということを押さえておきましょう。
4.イップスになりやすい傾向の性格

イップスになりやすい傾向にあるのは、どのような性格の選手なのでしょうか。
イップスになりやすい傾向の性格については、症状や原因と同じく、一概にも言えません。
アマチュアゴルファー57名を対象とした質問紙調査では、次のように報告されています。
・社交的
引用 投・送球障がい兆候を示す中学校野球部員の心理的特性2)
・陽気
・まじめ
・闘争心が強い
・対人関係に気を使う
つまり、性格が内向的、外向的にかかわらず、イップスなりやすい傾向の性格は、多種多様であるとされています。
「『野球においてイップスになりやすい人の特徴とは』論文をもとに解説」では、イップスになりやすい人の特徴について分かりやすく紹介しています。
参考としてぜひご覧ください。
-
-
「野球においてイップスになりやすい人の特徴とは」論文をもとに解説
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5.イップスの克服方法

イップスの克服方法については、次の2つに分けて説明します。
- 心理学的アプローチ
- 配慮的な声掛け
それぞれ見ていきましょう。
5-1.心理学的アプローチ
イップスを克服する方法として、心理学的アプローチが有効とされています。
なぜなら、岩田らの研究によって、相談機関を訪れた選手は、イップスの改善が見られているからです。
心理学的アプローチとして、有効とされた手法は、次の3つ。
・動作訓練
引用 複線径路・等至性モデル(TEM)による送球イップス経験者の心理プロセスの検討4)
・自立訓練法
・カウンセリング
しかし、改善が見られたのは、相談期間を訪れた選手のみであり、その他にもイップスに苦しんでいる選手やイップス傾向にある選手が多く存在していると推察されています。
よって、カウンセリングをしたり、相談機関と連携を図ったりすることは、イップスに苦しんでいる選手の一助となるかもしれません。
5-2.配慮的な声掛け
イップスを克服するためには、配慮的な声掛けが役立つとされています。
と言うのも、ある研究では、「イップスに配慮的な声掛けがなされた結果,イップスの早期回復につながっていた4)」ということが明らかにされているからです。
要するに、以下のような否定的な声掛けは、控えるべきでしょう。
「どこ投げてんだよ」
「しっかり投げろよ」
「送球の練習しとけ」
したがって、イップスを克服するためには、監督やコーチ、チームメイトからの配慮的な声掛けが必要不可欠と言えます。
6.実体験から語るイップスの怖さ

ここまで、イップスについて解説してきました。
最後に、わたしの実体験について紹介させてください。
内容は、次の3つに分けてお話しします。
- 原因
- 症状
- 乗り越え方
それぞれご覧ください。
6-1.原因
イップスを経験したのは、高校2年生の夏ごろ。
次のような環境や性格が原因だったと考えられます。
- ノックで送球のミスをすると、周りからプレッシャーがかかる言葉をかけられる
- ひとつの失敗からレギュラーを外されてしまう
- 性格として、緊張しいである
一般的には、投手がデッドボールを当てたり、試合中にとんでもないミスをしたりすることによって、イップスを発症すると思われているケースが少なくありません。
しかし、わたしの場合、上記のようなきっかけがあった訳ではなく、ある日突然、投げるのが怖くなりました。
つまり、常に緊張した状態での練習によって、イップスを発症したと考えられます。
6-2.症状
続いて、症状について紹介します。
具体的な症状は、次のとおり。
- 外野から内野への送球が怖くなり、とんでもない方向へ投げてしまう
- 全力で投げるよりも、軽く投げる方が怖くなる
- 悪循環に陥り、送球以外にも支障をきたす
上記にも記載したとおり、「投げるのが怖い…」ということが派生し、バッティングや走塁にも悪影響が及んでしまいました。
よって、イップスを発症してからは、何もかも思いどおりにいかなくなったという記憶が残っています。
6-3.克服方法
最後に、イップスの克服方法について紹介します。
当時、自ら実践した内容はこちら。
- ネットに向かって、送球を繰り返す
- 開き直って、ボールを投げる
- キャッチボールの相手を変えてみる
監督やコーチ、チームメイトからのフォローは、一切なかったため、自分自身で試行錯誤しながら克服するしかありませんでした。
わたしの経験からすると、イップスを克服するためには、開き直ることが一番の近道だったように思います。
7.まとめ

ここまで、イップスの原因や症状、克服方法について紹介してきました。
最後にまとめを記載するため、参考にしていただければ幸いです。
- イップスとは,「運動スキルの遂行に影響する不随意運動からなる長期的な運動障がい」(Roberts et al, 2013, p.53)と定義されている.
- イップスは、「送球する位置が定まらない」や「ボールが手から離れない」といった身体的症状を呈する。
- イップスの症状を呈した場合、否定的な心理状態に陥ることがほとんどであり、パフォーマンスを発揮するうえで、致命的な問題になりかねない。
- イップスの原因は、環境や人間関係、失敗による不安など、選手によってさまざまである。
- イップスになりやすい傾向の性格として、「社交的」「陽気」「まじめ」「闘争心が強い」「対人関係に気を使う」などが挙げられる。
- イップスの克服方法として、心理学的アプローチや配慮的な声掛けが有効である。